ラリー車転落顛末記




    ■はじめに
    20歳代前半で独身の自分はラジコン模型飛行機を違法無線で
    
    墜落させられたのに性懲りもなくアマチュア無線に興味をもったのでした。
    
    プロ無線通信士の資格を既にもっていたので早速、アマ無線の局免を取得して
    
    団地アパートの屋上に這い上がりGPアンテナ(無指向性)を立てたのです。
    
    そして、当時盛んだった144MHz帯のローカル局(近隣の無線局)との
    
    ラグチュー(交信)に夢中になりました。
    
    Oさん(故人)を中心にローカル無線クラブ「狸クラブ」が結成されました。
    
    結成したといっても、規約・会則・会費なしの、まことに気楽なクラブでした。
    
    名前の由来はOさんの体型からきたものです。(笑)
    
    メンバーは多士済々で今思えば、そうそうたる方ばかりでした。
    
    某音響メーカーの偉いさんを始めプロ写真家が3名、そのうちの1人は、
    
    日本大判寫眞家協会理事で地球サイズの仕事を精力的にこなしています。
    
    話が横道にそれましたが、狸クラブメンバー有志で
    
    山梨県にある宿泊施設で合宿することになりました。
    
    この事件は、そこに向かうまでの道中で起きたことです。
    
    ■三国峠
    会社の同僚が買ったばかりの新車に同乗して、この合宿に参加しました。
    
    車は当時ラリー界で一世を風靡していた”三菱ランサー”です。
    
    同僚は運転免許を取得したばかりですが広告の影響でランサーを買ったのです。
    
    ノーマル車ですが、この車と初心者との組合せは、いかにもアンバランスで
    
    [不適切な関係]と言えます。(^_^;
    
    宿舎に向かう道中は自分が運転していきました。
    
    途中に”三国峠”があります。この画像です。
    
    
    左からN自動車勤務のHさん、2番目が同僚で、3番目が自分です。 4番目が大学生のDさん、その隣がO江さん、右端はKさんです。 ここで昼食をとった直後、自分は強烈な睡魔に襲われ、 やむなく運転を免許とりたての同僚と交代したのです。 ここからは砂利道を麓に向かって一気に下るのです。 当時は道路整備が、あまりすすんでおらず、たいがいの山道は ガードレールなしの砂利道でした。 ここはラリー競技でよく使われる所で砂利道であるが故に、 四輪ドリフト走行等のテクニックを駆使して走り抜けられる FB(無線用語で素晴らしい)な道でした。 車は3台で先頭はラリーオフィシャル経験者のHさんが運転する ラリー仕様のサニーです。 自分達の車をはさんで、しんがりは大学自動車部の学生で韋駄天RXFと 言われたDさんでラリー仕様タイヤを装着したサニーという猛者です。
    ■転落
    自分は睡魔に襲われて助手席に座ったものの免許をとったばかりの彼が
    
    このメンバーと一緒に走れるのだろうか?という不安をおぼえました。
    
    だから、みんなで「ゆっくり走っていこうね」と言ったのに先頭車は
    
    砂塵をあげ砂利を飛ばしてフルアクセルで発進していきました。(^_^;
    
    少し間隔を開けて同僚の運転するランサーも、つられて猛然と発進しました。
    
    走り始めて1つ目の左カーブです。うまく回れるんだろうか?と
    
    身を硬くして心配したのですが、ハイスピードでギリギリでまわれました。
    
    案外、初心者でも、やるじゃんと思いました。
    
    2つ目の左カーブにさしかかったときも進入時のスピードは高いのですが、
    
    ギリギリで回れたようで、やれやれと思った瞬間、
    
    フワリと浮いた感じになりました。(@_@)
    
    早くも2曲がり目で車はカーブを回りきれずに道を外れて
    
    40度近くの斜面に向けて4輪をダランと下げた格好で
    
    空中にダイビングしていたんですね。恐い〜 (;_;)
    
    ■転落中の状況
    落ちたっと思った瞬間、目に飛び込んだのはグリーン一色でした。
    
    急斜面の草の中を一気に前進状態で転げ落ちていたのです。
    
    本人に後で聞いたらブレーキを踏んだつもりが
    
    アクセルだったかもしれないと言っていました。(^_^;
    
    兎に角、この状況ではブレーキを踏んだところで何の役にも立たないです。
    
    でも、アクセルは踏んで欲しくなかったです。
    
    瞬間ともいえるこのことは今でもハッキリ覚えています。
    
    グリーンの中を左右の小さな立木が後ろにブっ飛んでいきます。
    
    自分は助手席に設置されたアマ無線機にゴツゴツ膝をぶつけながら
    
    窮屈な空間で身体を丸め、こんなことで死ぬのはイヤだ。
    
    もう他人の運転する助手席には乗らないぞ!とか、自分が運転して
    
    同僚を巻き添えにするよりはマシとの思いがめまぐるしく脳裏をよぎりました。
    
    その間、車は横転することなく小さな木をなぎ倒しながら前進(転落)を
    
    続けましたが、大木が目前に迫ってきました。ぶつかれば万事休すです。
    
    もう駄目だと目をつむった時、[ガツン]と大木の寸前で
    
    急に車が止まりました。
    
    ■転落直後の状況
    ふと、我に返ったら、いつの間にかエンジンが止まっていて
    
    静寂がまわりを支配していました。大木を鼻先にして大きな岩の上に
    
    亀の子のように、かろうじて乗ったので急停止したのです。
    
    その先は崖で、落ちたらとても無事ではすまないところでした。(^^;;;
    
    車中の二人は茫然自失、ややあって「大丈夫?」と同僚に声をかけました。
    
    「だ、だ、だ、大丈夫」と彼は精神的に大丈夫な状態ではありませんでした。
    
    車はグラグラと揺れて今しも落ちそうで不安定でした。
    
    助手席の自分を上にして斜めになっているんです。
    
    どちらかが先に脱出したら車はバランスを失って転落するかも知れません。
    
    ひとまず助かったのに、ここで残って死んだのではたまりません。
    
    脇の下を冷や汗が流れました。
    
    相談して、いちかばちか二人で同時に飛び出すことにしました。
    
    多少、グラグラとしましたが脱出に成功しました。(^-^)
    
    自分は上の道で後続の車が止まっているものと思い
    
    急斜面に足をとられながら草につかまって道に這い上がりました。
    
    結構、急斜面だったので道まで登るのに苦労しました。
    
    ところが道に戻っても停まって心配しているに違いないと思っていた
    
    後続車がいないのです。「オーイ」呼んでも叫んでも応答がありません。
    
    山の中はシーンとしています。
    
    自分達が落ちたのに気が付かず麓に向かって走り去ったのでしょうか(゚Д゚≡゚Д゚)?。
    
    道から見降ろしても草むらの中の車は見えません。
    
    仕方が無く車に戻ると彼は悄然と立っていました。
    
    無線機を積んでいることに気がつき、彼に仲間に連絡することを頼みました。
    
    マイクをつかんで彼が言ったのは「落ちた、落ちた、落ちた」でした。(^_^;
    
    ややあって「何が落ちたのか?」という返事に愕然としました。(@_@)
    
    彼らは自分達の車が転落したことに気が付かずに麓近くまで走り抜けていたのです。
    
    無線を受けたときは3台目の車が先頭の車に追いついて
    
    ここでやっと2台目の車が、いなくなったことに気がついたと言うのです。
    
    しかし、引き返すには、あまりにも遠くまで来てしまったので、
    
    1台は取りあえず転落現場まで来てもらって自分達を乗せてもらいました。
    
    現場を去るときに草で車をカムフラージュして盗難に備えました。
    
    こんな事をしなければならないなんて、まったく情けないです。(;_;)
    
    もう1台と引き揚げの算段をすることについて無線で連絡を取り合いました。
    
    まだ、携帯電話がない時代でしたのでアマ無線はとても心強く思えました。
    
    ■転落その後
    Oさん達が麓の町まで日本酒の一升瓶を買いに行き、これを持って
    
    途中にあった製材作業所に車の引き揚げを頼みに行きました。
    
    山仕事に出ているので夕方にならないと車が帰ってこないとのことで待ちました。
    
    やがて、帰ってきたので一升瓶を渡して事情を説明すると大型材木運搬車の運転手は
    
    「わかった」と言って詳しい場所を聞かずに轟音を発して猛然と走り去ったのです。
    
    後で聞いたら転落する場所は、だいたい決まっていて2〜3ヶ月前にも
    
    引き揚げたそうで、その時の車は大破して運転手は半身不随になったそうです。(^_^;
    
    狭い1本道の山道を自分達の車が追いつくのに苦労するほど大型材木運搬車が
    
    猛スピードで走るので驚きました。やはりプロは違います。(@_@)
    
    ■車の引き揚げ作業
    車の引き揚げ作業のためにワイヤーを車の下に結びつけているところです。
    
    そばで軍手をして手伝おうとしたら
    
    「素人は危ないから手を出すな!」と怒られました。
    
    車のすぐ右の人が作業していただいた人で、隣の軍手メガネが自分、
    
    右端で呆然と立っているのが同僚(車の持ち主)です。
    
    
    「今は壊れていないようだが引き揚げる時に駄目になるかも知れない」 と言われましたが、引き揚げていただくことをお願いしました。 黄昏迫る夕闇の中、今しも大型材木運搬車の照明灯に照らされ、 ウィンチでワイヤーを巻き上げてランサーが約40度の斜面から 道路の上にドスンと引き揚げられた瞬間です。 手前で車を引っ張り上げているスーパーマンのように見えるDさんが 引っ張りあげている訳ではありません。(笑)
    ■再び走行できた。
    転落した状況から判断して、とても走行は不可能と思われましたが、
    
    下周りを点検しても損傷はないようです。
    
    小さな立木をなぎ倒した痕跡は前のバンパーが凹んでいるだけに見えました。
    
    2人とも無事で車もたいした損傷はなかったのです。
    
    「これは奇跡だ!」と作業した人に言われました。
    
    丁重にお礼を言って宿舎への帰路に着きました。まだ相当な距離があります。
    
    彼はとても運転できる状態ではなかったので自分が運転しました。
    
    最初は恐る恐る慎重に転がしていましたが問題ない事がわかると
    
    前車の過激な走行に刺激されて砂利を蹴散らしての激走です。
    
    懲りない自分です。(^_^; 
    
    この後、アクシデントの続きが起こるとは予想だにしていない自分でした。
    
    ■警告灯点灯
    岩の固まりのような不整地道路を、いい気になってカッ飛んでいたら、
    
    運転席の前パネルの赤いランプが点灯したので急停止して
    
    確認したら、何と!オイル警告灯ではありませんか。(@_@)
    
    先ほどのアクシデントでオイルパンでも割ったのかと思いました。
    
    懐中電灯で照らして点検したらオイルパンは何ともないのですが
    
    ドレンコックがありません。(゚Д゚≡゚Д゚)?
    
    そして後ろを見ると夜道にオイルの跡が点々と、どこまでも続いていました。
    
    あたりは既に真っ暗です。薄気味悪い感じがしました。
    
     (((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル (((((((( ;゚Д
    
    ■奇々怪々
    友人が車でオイルの跡をたどって戻ったら、バッとオイルが広がっている地点で
    
    道の真ん中の石の上にドレンコックが、ちょこんとネジ部を上にして
    
    ”そっと置きましたよ”という感じで落ちていたそうです。(@_@)
    
    ドレンコックは締め直しましたが、オイル無しではどうすることもできません。
    
    仕方がないので車を置いて一旦、宿に行くことにしました。
    
    ふと、周りを見渡すと車の側の崖の上から岩が今にも落ちそうな感じの不気味な
    
    山中で、この時ほど山の霊気というものを感じたことはありませんでした。
    
     (((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル (((((((( ;゚Д
    
    宿に着くと合流メンバーは皆、心配して待っていてくれました。
    
    状況を話すと車を放置するのは心配だということで閉まっていた雑貨店を
    
    あけてもらい、1缶だけ怪しげなオイル缶があったので、それを買って
    
    車を放置した現場に戻りました。オイルを入れエンジンを始動しました。
    
    誰かに見られているような不気味な気配を全員が感じつつ、
    
    その場を逃げるようにして宿までたどり着いたのです。
    
    ■宿に到着、合流メンバーと再会、大いに盛り上がる。
    久しぶりで再会した無線仲間と合流して、
    
    今日1日のアクシデントの話を肴にしてランプの宿で大いに盛り上がりました。
    
    左手前から韋駄天のDさん、Oさん(故人)、Hさん(ラリー本格派)
    
    右手前から同僚(放心状態)、Sさん、自分、Nさん、Kさんです。
    
    残念ながら、その後、同僚は体調を崩して退職してしまいました。
    
    相当なショックだったようです。
    
    自分は、それ以降、助手席に乗るのが恐くなり、
    
    どんなときでも自分で運転するように心がけています。