勇さん追悼記



■勇さん追悼記
    茶臼岳 山行の前日(2007年9月26日)は親戚の勇さんの告別式でした。
    
    勇さんは秋の園遊会に出席した親戚の誉れでした。山菜採り名人でもありました。
    
    その勇さんが2007年9月22日に山で死亡したとの突然の訃報に誰もが驚きました。
    
    式場の都合で告別式が9月26日になり横浜から栃木まで車で行って参列しました。
    
    当然、最初から予定していた翌日の山行のことは黙っているつもりでした。
    
    勇さんは、てっきり山菜採りに行った里山で倒れたのかと思ったら
    
    峠の茶屋駐車場に車を駐めて夜中から登山口から登り、
    
    峰ノ茶屋-三本槍岳-三斗小屋温泉-茶臼岳経由の登山に行って、
    
    途中の三斗小屋温泉付近で亡くなったとのこと。
    
    死因は心不全でしたが心臓の持病は特になかったとのこと。
    
    以前に30分くらい苦しかった事があり、その時の医師の診断は
    
    自律神経失調症との診立てだったそうです。
    
    2日間コースを1日でまわる強行スケジュールで心臓発作を起こしたのかもしれません。
    
    大黒屋スタッフのY林さんに「ザック重そうですね」と
    
    声をかけられたのが最後の会話だそうです。
    
    この時期は山菜はなく登山道具を買い揃えての初登山だったとのこと。
    
    自分より一つ年上ですが山菜採りで鍛えた健脚の勇さんには誰もついていけません。
    
    それにしても登山ルートが自分達が予定していたルートと
    
    酷似していたのには驚きました。(@_@)
    
    事ここに至っては黙っている訳にもいかず、実は以前からの計画で
    
    明日(9/27)茶臼岳に登る予定だと話しました。
    
    遭難現場が解るかどうか不明だが供養の為に現場に行くつもりですと話しました。
    
    親戚から行っても良いが朝日岳だけは登らないように釘を刺されました。
    
    「朝日岳は見る山で登る山じゃない」とも言われました。
    
    相当、険しい山のようです。このうえ遭難したらと思われたのでしょう。
    
    峰ノ茶屋から三斗小屋温泉までの往復は思いの外、高低差がありキツかったです。
    
    茶臼岳から峰の茶屋に行き三斗小屋温泉に至る急な崖道を下りました。
    
    途中の避難小屋で休憩していた時のことです。
    
    居合わせた中年男女二人連れの男の人から声をかけられました。
    
    中年男「その百合の花は、どうされたのですか?」
    
    自分「9月22日に三斗小屋温泉付近で遭難して救難ヘリコプターで
    
    搬送された者の親戚です。今日は現場に献花に来ました」
    
    と事情を説明すると男の方が「その時、救助でお手伝いした者です」と言うんです。
    
    三斗小屋温泉「煙草屋」旅館のYさんでした。
    
    三斗小屋温泉まで行って尋ねれば、おおよその現場が解るかもしれない、
    
    解らない場合は、だいたいの見当をつけた場所に献花したいと思っていたのです。
    
    ここで当日、救助活動していただいた方に、お会いできたのは偶然でしょうか
    
    勇さんの引き合わせかもしれません。鳥肌が立ちました。
    
    当日の詳しい状況を聞きガイドブックに現場の印をつけてくれました。
    
    これで場所がほぼ解ったので現場に献花できます。来てよかったです。
    
    お世話になった旅館の皆様にお礼を申し上げに行くと言ったら
    
    「救助活動はうちだけでなく大黒屋さんも協力したのでTさんを訪ねてください」と
    
    アドバイスされました。そして二人は峰の茶屋に向けて登って行きました。
    
    現場に向かう途中で後ろから「ドッドッ」と急ぎ足で降りてくる人がいました。
    
    脇に寄って道を避けたら
    
    「あの〜先日、亡くなられた方の親戚の方ですか?
    
    峰の茶屋でYさんに会って親戚の方が降りていったと聞いたので急いで来ました。
    
    ボクが第一発見者です。現場まで道案内いたします」と言うんです。
    
    この方は三斗小屋温泉「大黒屋」旅館スタッフのAさんでした。
    
    Aさんは今日は旅館勤務は休みですが、たまたまキノコ採りに来たのだそうです。
    
    本来なら、ここにいる筈がなかったのです。
    
    なんという偶然でしょう、再び、鳥肌が立ちました。
    
    こんな事って、単なる偶然の積み重ねなのでしょうか。
    
    Aさんに道案内していただいて良かったです。
    
    でなければ自分には現場は、とても解らなかったのです。
    
    救難ヘリコプターを誘導する為、焚き火をした跡やヘリがホバリングして
    
    担架で運ぶ為に木を切った跡が目印と聞いたのですが、
    
    さほど目立たなくなっていたからです。
    
    現場に献花して勇さんの冥福をお祈りしました。
    
    現場から400mほど行ったところに三斗小屋温泉があり
    
    2軒ある旅館のひとつ「大黒屋」旅館を訪ねました。
    
    紹介されたTさんから勇さんが立ち寄った時の模様を聞き、お茶をいただきました。
    
    次に「煙草屋」にお礼を言いに行ったら、こちらも丁寧に応対してくれました。
    
    「倒れる1時間前に元気に通って行ったのに」と、
    
    もう一人のTさんが自分を呼び止めて話しかけてくれました。
    
    お礼を言うと「救助活動は仕事ですから」と言うんです。
    
    山の男は素晴らしい人達ばかりです。
    
    これから麓まで戻るのは遅いので早く帰った方が良い。
    
    すぐに天気が崩れると言われて早々に旅館を後にしました。
    
    明日は天気が崩れるそうです。今日で良かったです。
    
    帰路、三斗小屋温泉から峰ノ茶屋に登っているときに降りてきたパーティの人達に
    
    「これから麓までだと大変ですね」と腕時計を見ながら同情されました。
    
    ロープウェイは終了しているので別の下山コースで帰りました。
    
    三斗小屋温泉・・・峰ノ茶屋・・・峠ノ茶屋・・・山麓駅前駐車場
    
    麓の駐車場まで降りる頃は暗くなりヘッドランプが必要かと心配したが、
    
    濃霧が立ちこめる薄明かりのなかを駐車場まで下山することができました。
    
    勇さんの奥さんに電話で報告したところ、すぐに現場に行って献花したい。
    
    お世話になった三斗小屋温泉の旅館の方に直接、お礼が言いたいとのことで
    
    自分が道案内をして遺族、親戚の合計8人で9月30日に再度、訪れました。
    
    (コース)
    
    ロープウェイ山麓駅前駐車場(無料)・・・ロープウェイ・・・山頂駅・・・
    
    牛ヶ首・・・峰ノ茶屋(避難所)・・・三斗小屋温泉・・・峰ノ茶屋・・・
    
    峠ノ茶屋・・・山麓駅前駐車場
    
    今回は茶臼岳を周回する比較的、楽なコースを選びました。
    
    ロープウェイの始発は通常は8時半ですが、この日は7時半とのことで待ち時間もなく
    
    早めに到着していた自分達は駅員と共に貸し切り状態で乗れました。
    
    この日の天気予報は終日、雨でした。
    
    現場での供養と三斗小屋温泉に着くまでは奇跡的に晴れたのですが、
    
    帰路は雨で、ずぶ濡れになりました。行きでなくてよかったです。
    
    突風が吹くので危険といわれる難所「峰の茶屋」は無風で助かりました。
    
    なお、この日の朝、テレビで「三斗小屋温泉」が放映されたそうです。
    
    タイミング良すぎです。
    
    「大黒屋」旅館のTさん、Aさんに3日振りで再会し、勇さんと最後の会話をした
    
    W林さんにもお会いすることができて、その時の状況もお聞きすることができました。
    
    勇さんは疲れたと話し、予定外ですが泊まろうと思ったようです。
    
    しかし、予約していなかったので旅館が満室のために泊まれなかったのです。
    
    もし泊まれたら遭難することもなかったかもしれないと思うと残念です。
    
    三斗小屋温泉を出発して400mほど先の道ばたの平たい石に
    
    ザックを背負ったまま仰向けになっていたそうで
    
    第一発見者のAさんが通りかかった時には心肺停止状態でした。
    
    通報で救難ヘリが出動したのですが着陸するスペースがない山路です。
    
    木を切り開いた狭い空間で遭難者を担架に乗せてロープで吊り上げたのです。
    
    救難ヘリをコントロールするのは高度な操縦技術が必要で大変だったと思います。
    
    「大黒屋」旅館そして「煙草屋」旅館の皆様、救難隊の皆様、お世話になりました。
    
    《参考情報》
    
    沼原駐車場から三斗小屋温泉に至るコースもありますが、急な上り下りの箇所があり、
    
    長距離なので上記のコースがベストですと大黒屋のTさんが教えてくれました。
    
    勇さんのご冥福をお祈りいたします。
    
    (追記)
    
    2008年5月24日、故勇さんの納骨式があり横浜から宇都宮まで行き参列してきました。
    
    早いもので亡くなられてから8ヶ月経つのですね。 →遠くを見る眼('-'*)
    
    夜中の午前1時半に勇さんのことを思い出して眠れなくなり、これを書いています。
    
    横浜から遠く離れた茶臼岳に登ることになった、きっかけがあるのです。
    
    実は屋久島 縄文杉に行こうと思いたち、近くの山で登山の練習をしていたのです。
    
    趣味のラジコン飛行機仲間くっし〜から茶臼岳に行ったとのメールをもらいました。
    
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    その時はロープウェイで登る観光登山には興味がなかったのですが偶然がいくつも重なり
    
    見えない力に引き寄せられるように茶臼岳に行くことになったのです。
    
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